理事長挨拶

rijicho

 

私たちNPO法人デジタルヘリテージデザインは、デジタル化技術によって文化財を保存・利用することを目的として事業を進めております。

そもそも人類の歴史を振り返りますと、文化財なるものは古くからあるのです。昔から、文化財必ず時代や社会の「記憶」と結びつき、記憶が薄れないうちに何らかの形で「記録」、「保存」しようとする衝動や願望に支えられて生み出されています。ファラオの墓やバビロニアの王宮を彩る金銀財宝は、主に個人崇拝や戦勝記念という形をとりますが、権力者の財力や権力誇示を目的とした、それなりにかなり風変わりな文化財保存の試みであることに変わりありません。下って、諸種のメディアを利用した人間の全記憶の分類や記録、保管、再現の努力は、西欧古典古代の記憶術から始まって、啓蒙時代の『百科全書』を経由し、グローバルな電子情報化が進む現代社会にいたるまで、洋の東西を問わず、きわめて幅広い歴史を作り出しています。いわば記憶を編集する歴史と言えるでしょう。

たとえば20世紀では、過去・現在の知や文化の集成願望は、音楽(再生装置とレコード)、写真と映画(フィルムとヴィデオ)、文学(マイクロフィルムと複写機)、美術(スライド)などで使われる文明の利器を介してよみがえりました。これらの利器は、人間が自分の遠大にして豊富な過去の事績と対話し、そこに意味を発見するための唯一のコミュニケーション手段と考えられたのであります。

そして21世紀に入って間もない現在、かつてない規模で進行する知のグローバル化、インターネットの普及、巨大情報の共有といった現象は、おそるべきスピードで地球を覆い尽くすかに見えます。こうした背景を踏まえて、私たちは慶應義塾大学がかねてより推進してきた学術資料や貴重書のデジタル化の研究と実践の伝統を継承する形で、文化財の保護と記録を心がけていきたいと願うものであります。調査研究、人材育成、ワークショップの開催など、手広い活動を展開して参りますので、どうかご理解あるご支援とご協力を賜りますようにお願いする次第です。

 

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鷲見 洋一(すみ よういち)

1941年(昭和16年)東京生まれ
専門領域 18世紀ヨーロッパ文学・思想・歴史

[学歴・職歴]

1960年~1966年 慶應義塾大学文学部文学科フランス文学専攻(学部・大学院)
1967年~1972年フランス政府給費留学生としてフランス、モンペリエ大学文学部(ポール・ヴァレリー大学)博士課程に入学。
同大学にて博士号取得、帰国
1985年 慶應義塾大学文学部教授(フランス文学専攻)
1993年~1994年 イタリア、ボローニャ大学客員教授
2008年~2012年 中部大学人文学部教授

現在慶應義塾大学名誉教授。アートドキュメンテーション学会前会長。

[著書]

 Le Neveu de Rameau: caprices et logiques du jeu, Librairie France Tosho
『翻訳仏文法』(ちくま学芸文庫)
『「百科全書」と世界図絵』(岩波書店)