茨城史料ネット報告書

はじめに

 20136月下旬、茨城県北茨城市内大津町所在の佐波波地祇(サワワチギ)神社の、「御船祭」(国選択無形民俗文化財)という祭事に関するこれまでの記録写真が被災を受けているため、保全処置が行えるかどうか連絡がはいった。写真の状況を確認し可能であれば最低限の保全処置を行うというかたちで同法人は77日と824日の二回、活動に参加した。

 この写真史料群に記録されている「御船祭」は5年に1度開催され、次回は20145月の開催を予定しており、震災後初の祭礼ということもあって、市・地元ともに非常に力を入れて取り組まれている事業である。同県の茨城大学が所蔵している「五浦六角堂」とともに地元では市内復興の象徴と位置づけられている。

 写真数は約90点あり、佐波波地祇神社より茨城史料ネットにレスキューの要請が入り最初に調査を行った際(201369)、すでに写真はかなりのダメージを受けていた。写真の種類はカラー写真、黒白写真であり、多くは額装されて保管されていた。

写真が保存されていた社内の神輿殿は被災によって雨漏りをしており、2年以上雨風にさらされていたため額装された写真にカビが繁殖し、その影響で画像が損失しているものや退色しているものもあった。また額のガラスと写真乳剤面が固着しているものも確認された。

活動内容

 写真の保存処置や修復には専門の知識や経験が必要である。化学反応により形成された写真画像は非常に繊細であり、今回の場合はカビや水害の影響で画像が損失しているものもあった。補彩やカビの完全な除去などの処置が必要とされたが、専門家の熟練された技術が必要な処置であることと、処置時間と環境の整備が困難な状態であったため、運搬可能な応急処置として額のガラスと固着した写真の取り外しと出来る限りのカビ除去に努めた。加えて額装にもカビの被害が広がっていたため、新たな保存環境を整備することとした。

処置方法について以下に箇条書きで示す。

   社内の神輿殿の保管状況を記録、写真一枚ずつに史料番号を付与し写真撮影、調書を取る(茨城史料ネットが事前に作成)。

   全てのコンディションのチェックを行い、被害が大きいものと比較的状態が良いものに分け、被害の大きいものから処置を施す。

   作業を分担して、チームで作業を管理する。

   額から写真を外す。

   全ての写真に対して刷毛で出来るだけカビや汚れを落とす。

   ガラスと固着している写真は時間をかけエタノールと水を使用しガラスから剥がす。

   処置を行った後、写真撮影をして処置前と処置後を比較できるように記録する。

   写真を乾燥させた後、写真を新しい中性紙で保護し保存箱で収納する。その際に史料番号を記録し整理する。

まとめ

 今回保全処置を行った写真は災害にあってから年月が経過していることもあり被害が大きく、カビの影響で画像が損失しているものもあった。ガラスと固着しているものもあり、環境が整った場所まで運搬して作業を行うことも検討されたが、リスクが非常に大きいため社内(社務所)での対応となった。

環境面、時間と充分な処置を施せたとは言えず、課題も多く残っているが、応急処置により写真は持ち運び可能な状態となった。

被災した神輿殿は201312月に建て替えを終え、すべての写真史料を社務所より移管したとの報を、茨城史料ネットより受けた。今後は保全作業を完遂し、所蔵者の方と相談の上、新たな保存環境のもとで継続的にケアーできる仕組みを作りたい。

 この活動の成果は2014128日より北茨城市歴史民俗資料館(野口雨情記念館)で公開される。今回の活動をきっかけに専門家の方々や活動に賛同する方々、そして地域の方々とのネットワークが広く繋がり、保全活動の輪がより強いものへ発展することを望むばかりである。

文責:NPO法人デジタルヘリテージデザイン 竹内涼子